注意 

まだ、著者を含めて観察を続けている段階であり、ここに書かれてる内容は充分確認が取れているわけでは
ありません。新しく発見や情報が入れば、随時修正、追記を行っていく予定です。



 「生態観察ガイド 伊豆の海水魚」が発行されるまで、日本国内には生態写真が 掲載された図鑑はありませんでした。著者が知るかぎり、初めて生態写真が紹介さ れたのは、「I.O.P. DIVING NEWS」です。

バラヒラベラのメス まあ先ずは左の写真を見てみて下さいな。なかなかキレイでしょ?

実際に水中で見ると、体の色はもっとキレイなショッキングピンクで、 鰭(ひれ)は青みがかかっていますので、他の魚とは見間違えようが ありません。

現在の分類では、スズキ目ベラ科テンス属というグループに属しています。

左の写真は体長6〜7cmくらいのメスです。


あんまり映りは良くないですが、右側の写真がオスです。撮影当時で(目測) 全長20cmくらい。

パッと見た目でのメスとの違いは、黒い斑紋があること。キュウセンとか と同じですよね!?

魚に詳しい人ならご存じですが、ベラの仲間は一部のメスがオスへと性転換しまますが、バラヒラベラもメスからオスへ変るみたいです。


バラヒラベラのオス


つい最近まで比較的南方の地域での報告しかありませんでしたが、 2000年頃から西伊豆の大瀬崎での報告を皮切りに、2001年9月 には早川で、そして同じ頃に赤沢で謎のテンスとして撮影されていました。 また、著者の友人からも伊豆半島の東側の富戸において目撃情報が 寄せられています。

いずれの場所でも共通しているのは、周囲に何も遮る物がない砂地である ことです。大瀬崎では比較的高水温な時期に限定されているとの事ですが、 赤沢では周年コンスタントに見られるとのことです。

また、早川においても目撃証言を合わせると比較的コンスタントに見られる ようですが、この原稿を執筆している2003年2月末の現在、(時化の 影響もあるのかも知れませんが)1個体も見かけていません。 2001年もグループが消失すると、たまに7〜8cmの単独の個体を 見かける以外は、少なくとも私が巡回するコース内では見かけませんでした。




いつも概ね決まった場所にいる

 バラヒラベラは複数の個体が固まったエリアで確認されると、そこの場所に行けば概ね次回も見られます。ただし、ときどき見られる単独の個体の場合は、まず1箇所には留まっていないようです。

サイズの大きな個体ほど神経質

 個体差もあるみたいですが、比較的小さなサイズ程、寄りやいようです。また、成長するほど神経質になっていき、遊泳力も増すので近寄りにくくなります。(当サイトにオスの写真が少ないのもそのためです。)

ある程度水中が暗くなると居なくなる?

 また、水中がある程度薄暗くなってくると、先程までメスがいた場所に行っても、1個体も見かけなくなっています。でも、次の回に潜りにいったときは、やはり概ね同じ場所にいます。

ナワバリ行動?

 遠巻きに観察していると、どうやら個体間は一定の距離を保ちつつ遊泳するようです。

 個体にはそれぞれナワバリがあるらしく、同一サイズか若干大きいサイズが自分のナワバリ内に入り込んできた場合は、威嚇したり体当たりをして追い出そうとしているシーンをよく見かけます。

 他にもオスが摂餌中のオスよりも若干小さめのメスの前でヒレを広げたら、気の強いメスが体当たりを食らわしたのを3回ほど観察しました。

摂餌行動について

 餌に関してはベントス食のようです。摂餌の時は砂に向かって何かに食いついては砂を吐き出しています。

 食べているときが一番警戒心が無いらしく、近くに寄りやすいですし、他の個体のナワバリに突っ込んで威嚇されているのは大抵、摂餌時のように思えます。

追跡してくる外敵の回避方法

 比較的小さなサイズのメスは、追うと円周状に逃げて、ぐるっと回ってくると同じところに戻ってきます。そして、時々回る方向を反対方向変えますが、やはり同じところに戻ってきます。追うのをやめて、しばらくしてから最初にいた辺りに行くと、ちゃんと元の場所に戻っています。

 執拗に追跡してくる外敵から逃れようとするときは、ただ逃げ回るのではなく、他の個体のところへ突進し、追跡をかく乱しようとするみたいです。

 バラヒラベラが確認される時期には、カイワリも早川に出てきます。カイワリはキュウセンにつきまとう様子がよく観察されますが、同様にバラヒラベラにも付きまとって、餌を横取りしようとします。バラヒラベラは逃げ回りながら、別の個体がいればそこに突進します。

 この性質を利用すると、いつもバラヒラベラが観察できているエリアに行き、多少透明度が悪くても、1個体を見つけて砂の中にもぐりこまない程度に追いかければ、辺りにいるグループ内の個体は芋づる式に見つけることができます。(もっとも、追いかけるダイバーもかなりの泳力が必要ですが)

潜砂行動について

 よほど驚くかプレッシャーをかけない限りは潜らないようです、むしろ泳いで逃げます。

 1例は17〜8cmくらいのサイズの個体が餌を食べるのに夢中になりながら、こちらの近付きすぎてしまい、私のレギの排気音でほぼ頭から直角に砂の中へ 飛び込みました。すぐに潜った辺りにいって、砂を煽って深さ30cm程、掘って見ましたが出てきませんでした。メインロープのすぐ脇だったので、他のダイバーも 近くにいましたし、あんまりムチャはできませんので。もちろん埋めときました(^^;)

 もう1例は少し大きくなり始めたメスを撮影のために追いかけてみましたが、これもほぼ直角に頭から砂中に飛び込みました。直径1mくらいの範囲で砂を煽って 掘ってみましたが、やはりでてきませんでした。

 2004年暮れ〜2005年にかけて目測5〜7cmくらいのメスだけのグループが確認されましたが、意外にも簡単に砂の中へ潜ってしまいました。まだ逃げ回るほどの泳力がない場合は、常に「巣」の近くに居て、何かあると逃げ込むのかも知れません。

比較的、高い水温期にグループが確認される

 今までの経験から、グループが確認されたのは、いずれも7〜9月の水温が高い時期です。ただし、水温が急激に落ち込まない場合は12月頃でもグループが確認されています。





考察1)「巣」の存在とナワバリ、そして追跡回避行動

 ここで言う「」とは、夜間の寝床としたり、追跡者から避難するためにする場所の事をさしています。 バラヒラベラが見られる場所の特徴は、どの目撃地点も辺りに遮るものが無い、だだっ広い浅めの砂地です。バラヒラベラは追跡者や 夜間の睡眠中に寄生中や捕食者等から身を守るために、おそらくナワバリ内に砂の中に潜り込み易い場所を持っているのではないかと 考えています。

 追跡者の脅威を回避するために、同じところを円周状に回るのは、実はナワバリ内にある「巣」へ最終的には飛び込めるようにするため ではないのか?と最近は考えています。

 そして、個体同士の距離というのは、ちょうどナワバリ同士が隣接している状態で保たれていて、ナワバリを守ることによって餌以外にも 夜間の寝床や避難場所としての自分の「巣」を他の個体に奪われないようにしているのでは?と考えています。

考察2)メス→オスの性転換は体長20cm付近が境目か?!

 バラヒラベラに関しては最初全てメスで、途中で先に概ね全長20cmを超えたものがオスになるのではないかと考えています。これは、バラヒラベラ自体、ダイビングエリア内で観察できる個体数が少ないのもあるかも知れませんが、目測で20cmを割ったサイズのオスは観察を始めた4年間ずっと見ていません。

考察3)産卵が終了することによってグループが消失する?

 今までの観察から、ある時を境に、急にグループ内の個体数が減っていき、グループが消失します。

 グループが内の個体数が減っていくのは、グループ内に17〜19cmクラスのメスが複数いて、かつオスも付近やグループ内にいるのが確認されてから、ある程度の期間がたってからというイメージを私は持っていますので、この間に産卵が行われていると考えています。

 たまに観察された単独のバラヒラベラに関して、オスは同じグループ内にいた他の優勢なオスにメスのいるエリアから追い出されてしまい、強いオスが他のメスに構っている間を狙ってメスにちょかいを出しに来ているのでは?と考えています。

 また、メスに関しては羽化のタイミングが遅かったり、成熟が遅れたりして産卵への参加に間に合わずグループが消失してしまった時点で、たまたま観察されたのでは?と考えています。




謎1)幼魚はどこへ?

 今まで観察できた一番小さい個体でも目測で体長5cm程度で、それより小さな「これぞバラヒラベラの幼魚だ」と自信を持って言える個体は、まだ観察できていません。今までのパターンだと、あれだけ目立つ体色の、しかも5cm以上の個体が数匹のグループで突然現れるのです。

 同じテンス属の中で、例えばテンスも一度見つけると目測で全長5cm程度までは、毎回ほぼ同じ場所で観察出来る場合が多く、小さな個体だと2cm程度のものも観察できました。(たいてい、ガイドロープと砂の間に、ウネリによって出来たわずかな隙間があり、そこで見つかります)

 バラヒラベラの場合はグループが見つかる場所はガイドロープから少し離れた場所が多い事もあるのかも知れませんが、それでもあんな体色の幼魚なら、しかも浅場なので目立たないハズはないのですが!?

謎2)好みの環境は?

謎3)巣はどうなっているの?巣の深さは?

謎4)産卵はいつ、どこで行われているのか?


執筆中





I.O.P DIVING NEWS 2000年11月号 p.7
生態観察ガイド 伊豆の海水魚 p.167